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野口酒造店

代表銘柄:國府鶴

東京都

TOKYO

1860年創業

東京都府中市に位置する合名会社野口酒造店は、1860年(万延元年)に大國魂神社の神人を務めていた初代当主・野口久兵衛が「中屋」を創業して同神社の御神酒造りの準備を進め、明治2年(1869年)に酒造りを始めた酒蔵です。代表銘柄は創業時からの信条に由来する「國府鶴(こうづる)」です。

昭和後期には周辺地域の急速な都市化に伴う酒造環境の変化により自醸を休止し、委託醸造を行っていました。しかし、2024年(令和6年)春、新酒蔵の整備と井戸の掘削を経て、約40年ぶりに地元・府中での自醸酒製造を復活させました。また、東京農工大学と連携した「武蔵日本酒テロワールプロジェクト」を推進するなど、地元の米や仕込み水を用いた持続可能な酒造りに取り組んでいます。

野口酒造店の歩み

野口家は江戸時代、大國魂神社の隣接地に住み、神人として神事や社務の補助、雑役を務める家でした。万延元年(1860年)、野口久兵衛が別家し、現在の「中久本店」の所在地で酒や煮物を商う店「中屋」を名乗り、武蔵総社である大國魂神社の御神酒造りの準備を進めました。これが野口酒造店の原点です。大國魂大神が初めて府中の地に渡られた際、野口家が一夜の宿を提供したと伝わり、毎年5月5日の例大祭では、神主をご祭神に見立てて茶、濁酒、清酒、赤飯の順でもてなす「野口仮屋の儀」が行われます。この神事は、野口家の当主が代々務めています。

明治2年(1869年)、2代目久兵衛は「府中の水は酒造りに適している」という信念のもと、多摩川から荷馬車で水を運び、中久の店舗裏で濁酒の製造を始め、まもなく清酒造りに進みました。店は甲州街道(現在の旧甲州街道)と鎌倉街道(現在の府中街道)が交差する場所にあり、旅宿や貸席が軒を連ねる好立地でした。府中には武蔵国の国府が置かれていたことから、「国府の地で鶴のような美しい酒を造る」という信条のもと、創業時から「國府鶴」を銘柄としています。

大正12年(1923年)には府中市寿町に製造場を移して酒蔵を新築し、製造石高は昭和21年ごろに240石、最盛期には720石(一升瓶換算で72,000本)まで伸びました。3代目の泰平までは「久兵衛」の名を戸籍上も襲名していました。泰平が早世したため、長男の栄治が継ぐまでは妻のしげが4代目として蔵を切り盛りしました。昭和27年(1952年)5月には個人営業を会社組織に改めて合名会社野口酒造店を設立し、中久本店を小売部門としました。

6代目の忠直は昭和53年に社長に就任しました。昭和の終わりごろになると酒蔵の近隣で都市化が急速に進んで酒造りの環境が悪化し、酒質も落ちていったため、忠直は長野県にある縁戚の酒蔵への委託醸造を決断します。以後も「國府鶴」の名は委託醸造で守られ、委託先で造った酒を府中で加水調整して瓶詰めする形が続きました。平成12年(2000年)2月、忠直が府中市長に就任したため、長男の英一郎が7代目を継いでいます。

転機は2020年夏でした。東京農工大学の大川泰一郎教授が、同大学が開発した新品種米「さくら福姫」での酒造りを依頼に訪れたことをきっかけに、英一郎は自醸酒の復活を決意します。2022年7月に同大学大学院農学研究院と基本協定を結んで「武蔵日本酒テロワールプロジェクト」を始め、2023年秋から製造所を新しい酒蔵へ改修し、新たに井戸を掘りました。2024年4月10日に洗米を始めて約40年ぶりに府中での酒造りが復活し、同年5月末に搾った新酒は大國魂神社にお神酒として納められ、6月に奉納奉告祭が行われました。

7月1日には府中市内の酒販店で先行発売が始まっています。

酒造りの特徴

復活にあたり、製造所の建物の躯体を残して内部を改修し、延べ床面積350平方メートルの酒蔵に整えました。北海道の上川大雪酒造のコンサルティングを受け、蔵の入口にはエアシャワーを設けています。洗米は10キロ単位で行う最新の機械、甑と放冷機は新品を導入し、パネル式の麹室には種切りと盛りを兼ねる台を備えました。仕込み室には、狭い建物を有効に使うために特注した背の高い2,700リットルのサーマルタンクが6基あり、仕込み能力は2024年時点で最大300石です。

杜氏として迎えられたのは、佐賀県の天吹酒造で長く酒造りに携わり、東京農業大学を卒業した木下大輔さんです。

仕込み水は、敷地内に新たに掘った井戸の水です。地下160メートルまで掘って水量豊富な水脈に至り、水質は酒造りに不要な成分を含まない良質な軟水で、水源は武蔵野台地の地下伏流水です。蔵のコンセプトは「東京で飲めるフレッシュな日本酒」で、最新設備と製造環境の見直しによる「フレッシュローテーション」で、ほぼ年間を通じて安定してフレッシュな日本酒を届けることを目指しています。2023酒造年度は4月から6月にかけて短期間で5種類の「國府鶴」を醸し、使った酵母は協会酵母の標準的なタイプでした。

目指す酒質は、凛として品があり、端正で麗しく、米の旨味を引き出した、柔らかく切れの良い淡麗旨口です。令和7酒造年度の製造は2025年秋に始まっています。

原料米は武蔵国産米の使用を目指しており、東京農工大学が開発した「さくら福姫」はその中心です。耐倒伏性に優れ、低窒素肥料の条件でもコシヒカリより収量が高い性質を持つ品種で、旧武蔵国(東京、埼玉、神奈川の一部)の農家に栽培を呼びかけています。酵母では、東京農業大学醸造科の協力を得て、大國魂神社の社務所前と府中郷土の森梅園に咲く府中市の花「梅」からの酵母の分離培養に取り組んでいます。2025年5月に期間限定で発売した「國府鶴 純米辛口」には、月下美人の花から純粋分離した酵母を使いました。

現在の主な商品は、フラッグシップの「國府鶴 純米吟醸」(雄町、精米歩合55%、2025年2月26日発売)、「純米」(精米歩合65%)、「純米大吟醸」(精米歩合50%)、さくら福姫を全量使用した「さくら福姫」、期間限定の「純米辛口」(精米歩合65%)です。このほか、新しい酒造年度の幕開けを告げる限定酒「Overture」を毎年、米や酵母、製法を変えて出しており、2025年は12月12日に蔵出ししました。これらの商品はいずれも火入れで詰口しています。

代表銘柄

國府鶴

「國府鶴(こうづる)」は、創業時から続く野口酒造店の代表銘柄です。武蔵国の国府が置かれた府中の地で、鶴のような美しい酒を造るという信条に由来します。委託醸造の時代も銘柄は守られ、2024年7月1日には自醸復活後の酒が府中市内の酒販店で先行発売されました。かつては委託醸造期の商品として「中屋久兵衛」の名の純米酒や純米吟醸も販売されていましたが、現在の公式ラインナップには含まれていません。

見学・購入

直売所
酒座 中久本店(東京都府中市宮西町4-2-1)
補足
蔵での直売は行っておらず、國府鶴の購入は各地の特約酒販店を通じて行います。酒座 中久本店は創業の地にある酒販店で、昭和27年の法人化の際に野口酒造店の小売部門となりました。特約店のひとつです。酒蔵は府中駅に近い寿町にあり、蔵元は2024年に、落ち着いたら酒蔵見学も受け入れたいと語っていました。

見学・販売の情報は変わることがあります。訪問前に公式サイト等でご確認ください。

蔵の基本情報

所在地
東京都府中市寿町2丁目4番地ノ8
創業
1860年

出典

noguchi-brewery.co.jp / asahi.com / keizai.biz / nakakyu-honten.com / chofu.keizai.biz / sakestreet.com / jp.sake-times.com / sakenomy.jp / at-tama.tokyo

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