井手酒造
代表銘柄:虎之児
佐賀県
SAGA
1868年創業
佐賀県嬉野市の嬉野温泉街の中心に位置する井手酒造は、1868年(明治元年)に井手與四太郎によって創業された酒蔵です。代表銘柄の「虎之児」は、我が子を深く慈しむ虎のように長く愛飲され、千里を走る虎のように名声が広まることを願って命名されました。
最大の特徴は、杜氏をはじめとする蔵人全員が「うれしの茶」を育てる茶農家でもある点です。春から秋はお茶を栽培し、冬の短い期間に力を合わせて酒造りを行っています。また、温泉街ならではの酒蔵として、瓶洗いや火入れに温泉を使うなど温泉資源を生かした酒造りが行われています。
受賞歴として、福岡国税局酒類鑑評会での大賞(令和2年)や福岡国税局での多数の金賞・優等賞の受賞、蔵の発表では全国新酒鑑評会での金賞などがあります。かつて放浪の俳人・種田山頭火も訪れて愛飲した記録が残るなど、地元に深く根ざした銘酒を今に伝えています。
井手酒造の歩み
明治元年(1868年)、嬉野茶の研究や海外輸出に携わっていた井手與四太郎が、嬉野川(塩田川)の清水を使って酒造業を始めたのが井手酒造のはじまりです。蔵があるのは、日本三大美肌の湯のひとつに数えられる嬉野温泉の商店街の中心で、嬉野温泉の酒蔵として今に続いています。
二代目の井手又次郎は明治2年(1869年)に與四太郎の次男として生まれ、いったんは親戚の養子に出ました。しかし父の與四太郎が明治28年(1895年)に、跡取りだった兄の熊一郎が明治30年(1897年)に相次いで亡くなったため実家に戻り、30歳前に家業を継ぎます。酒造りの経験が乏しく、幾度か失敗して大きな損失も出しましたが、精進を重ねて家業を守りました。大正後期には、軍港として急速に都市化した佐世保を大消費地と見て販売の店を構え、嬉野温泉株式会社の取締役社長も務めています。
三代目の與四七郎は昭和10年(1935年)に36歳で亡くなり、その後は妻の光枝が家業を支えました。昭和30年8月には井手酒造有限会社が設立され、昭和47年に光枝が亡くなると洋子が家業を継ぎ、令和2年10月1日には洋子の娘の東敦子が六代目社長に就任しました。女性が三代続けて経営を担う、男性中心の清酒業界では珍しい蔵です。
代表銘柄の「虎之児(とらのこ)」は、創業者の與四太郎が「虎はわが児を思う情けが非常に深い、その虎の児のように情けをかけ長く愛飲してもらいたい。そして千里を走る虎のように、その名が広く響き渡るように」との願いを込めて名付けました。放浪の俳人、種田山頭火は嬉野を訪れて虎之児を気に入り、旅日記「行乞記」にたらふく飲んだ虎之児への感想を残しました。蔵の店先には山頭火の句碑が立っています。
2003年には、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ」(MUSES-C)の性能計算書(飛翔実験計画書)の表紙に、虎之児のラベルが採用されました。日本酒や焼酎のラベルを計算書の表紙に使う慣習があり、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」というミッションの性格と銘柄名が重なったことが選ばれた理由です。採用されたのは特撰のラベルで、はやぶさが地球に帰還した2010年には全国から注文が相次ぎました。
全国新酒鑑評会では、平成15〜25酒造年度に8回入賞しています。蔵の発表では、平成5・7・8酒造年度(開催は平成6・8・9年)に金賞を受けています。福岡国税局が福岡・佐賀・長崎の三県を対象に開く酒類鑑評会では、平成21年から令和7年までに9回金賞に入りました。平成21年と22年は吟醸酒の部と純米酒の部の両方での金賞です。令和2年には純米酒の部で「純米 虎之児」が最高賞の大賞を受け、蔵として初めての大賞となりました。優等賞は平成14年・15年・19年に受けています。
蔵の発表では、このほか平成4〜9年に優等賞が5回、平成8年・13年・16年に金賞があります。
酒造りの特徴
酒造りを担う蔵人は全員が嬉野茶を育てる茶農家で、春から秋はお茶を栽培し、冬の短い期間だけ酒を造ります。毎年12月ごろから2月いっぱいまで蔵に泊まり込んで仕込み、2月の蔵開きを見届けると、それぞれ茶の作業に戻ります。令和2年に大賞を受けたころの杜氏は、古賀次夫杜氏のもとで45年にわたり技を受け継いだ山口文男さんでした。2024年12月時点の杜氏は吉牟田さんで、その釜炒り茶は同年の全国茶品評会の釜炒り茶の部で最高賞の農林水産大臣賞に選ばれています。
工程は昔ながらの手仕事を大切にしています。精米は専門の搗米工場に委託しています。吟醸用の高精白米は手洗いで洗米し、水を吸う速さが早いため秒単位で時間を計りながら浸漬します。蒸米は粘りが出ないよう硬めに仕上げ、麹造りは約30度に暖めた室で真冬でも汗だくになって作業します。仕込みは三段仕込みで、初添えのあと1日置いて酵母の増殖を促し、3日目に仲添え、4日目に溜添えを行います。一度に仕込むと酵母が薄まって雑菌が繁殖しやすくなるため、この方法を取っています。
発酵を終えたもろみは、ヤブタ式の自動圧搾機で清酒と酒粕に分けます。かつては木製の酒槽で搾っていました。清酒は濾過と火入れをして貯蔵タンクで熟成させ、酒粕は板粕などとして販売するほか、奈良漬用の粕にも使われます。蔵では長期低温発酵による吟香と、飲みやすさを持ち味としています。
温泉街の酒蔵らしく、蔵には天然温泉が湧いています。酒瓶は温泉の湯で洗い、火入れの工程にも嬉野温泉をかけ流します。地下の源泉かけ流しの温泉は、冬の夜中に何度も酵母の様子を見に行く杜氏や蔵人のために備えられたものです。仕込みの期間は朝の味噌汁も温泉水で作ります。県外にはあまり出回らず、しっかりとした甘みのある味わいが地元で長く親しまれてきた蔵で、虎之児のほかに「杜氏の誉」「蔵の音」「令酔」などの銘柄が店頭に並びます。
代表銘柄
虎之児
虎之児は、創業者の井手與四太郎が、虎の児に注ぐような情けをかけて長く愛飲してほしい、千里を走る虎のように名が広まってほしいと願って付けた銘柄です。長期低温発酵による吟香と飲みやすさを持ち味とし、しっかりとした甘みがあります。令和2年に福岡国税局の酒類鑑評会の純米酒の部で「純米 虎之児」が大賞に輝き、特撰のラベルは「はやぶさ」の性能計算書の表紙にも使われました。
見学・購入
- 蔵見学
- あり(要事前確認)
- 直売所
- 蔵の前に直売店舗があり、試飲もできます。営業時間は8時30分から18時まで、日曜が休みです。オンラインショップでも購入できます。
- 補足
- 蔵見学は予約制で、大人数の訪問や繁忙期は難しい場合があります。毎年2月に蔵開きを開き、2025年は2月22・23日に開かれ、2026年は2月21・22日に新酒の振る舞い、有料試飲、温泉湯豆腐、酒蔵マルシェなどが予定されました。3月には嬉野温泉の酒蔵まつりもあります。
見学・販売の情報は変わることがあります。訪問前に公式サイト等でご確認ください。
蔵の基本情報
- 所在地
- 佐賀県嬉野市嬉野町大字下宿乙806-1
- 創業
- 1868年
- 公式サイト
- www.toranoko.co.jp
出典
saga888.jp / sipory.jp / toranoko.co.jp / base.shop / sakagura-tourism.com / rakuten.co.jp / nta.go.jp / web.archive.org / travel.rakuten.co.jp / sakeworld.jp / nrib.go.jp / ureshicard.com / city.ureshino.lg.jp / toranoko.base.shop
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