八百新酒造
代表銘柄:雁木
山口県
YAMAGUCHI
1877年創業
明治10年(1877年)、山口県岩国市にて創業された酒蔵です。錦川の河口近くにあったかつての藩主別邸(御茶屋)の跡地で創業し、当初は「新菊」を醸造していましたが、5代目蔵元・小林久茂氏の代に「雁木(がんぎ)」を立ち上げました。銘柄名は、かつて錦川の上流から運ばれた原料米を水揚げした階段状の船着場「雁木」に由来しています。
造りにおいては純米・無濾過にこだわり、醸造アルコールの添加や炭素による濾過を行わず、米という素材本来の可能性を引き出す「素直な酒」を目指しています。白米の水分計測や少量ずつの手洗いといった丁寧な下準備に加え、麹づくりの品温データのクラウド共有など、職人の技と技術を融合させた酒造りを行っています。
受賞歴として、フランスで開催された日本酒コンクール「Kura Master 2025」において、「雁木 純米大吟醸 鶺鴒(せきれい)」が最高賞であるプレジデント賞を受賞しています。
八百新酒造の歩み
八百新酒造は明治10年(1877年)の創業です。岩国吉川藩の御用商人として諸商いを営んでいた八百屋甚兵衛の養子、八百屋新三郎が分家独立し、錦川の河口近くにあった藩主の別邸、今津御茶屋の跡に“八百新”を興しました。御茶屋は明治3年に廃されて民間に払い下げられており、その払い下げを受けた民間人が、現在の蔵元の先祖にあたります。創業者は、かつて米と和紙を貯蔵していた御蔵を酒蔵として使い始めました。
創業当時の事業内容を記した引き札が今も残り、本家の八百甚が醤油醸造を本業としたのに対し、新三郎は清酒醸造を本業に据え、醤油製造も継承しつつ、氷貯蔵所も設けていました。当時の銘柄は、新三郎と妻キクの名から一字ずつ取った「新菊」です。
二代目の八百屋収は醤油製造を切り離して清酒醸造を伸ばし、「新菊」を地元岩国のトップ銘柄に押し上げました。ビールや洋酒を扱う総合酒類卸売も手がけ、この時代が八百新商店の絶頂期でした。しかし戦中戦後の米不足で政府が三倍醸造法を奨励すると、純米酒しか造ったことのなかった杜氏は不慣れな製法に適応しきれず、評判を落として地元でのシェアを失っていきます。酒類卸の部門は昭和30年代に八百新酒類販売として分社独立し、酒造部門の八百新商店はその陰に隠れる存在になりました。
広島高等工業(現在の広島大学工学部)の発酵学科で学んだ三代目の小林朋治は、原田杜氏とともに酒質を改善しました。蒸気と同時に不活性ガスを用いて外硬内軟の蒸米を得る方法を独自に研究し、理論特許も取得しています。それでも評判は戻らず在庫が積み上がり、酒造を続けるか休むかの決断を迫られるまで経営は逼迫しました。三代目は休造が杜氏や蔵人の離散、ひいては廃業につながると考え、大幅な減産と、原田杜氏と蔵人1人だけを残す人員整理に踏み切ります。
足りない人手は瓶詰や販売を担う年間雇用の従業員が蔵人を兼ねて補い、のちに五代目となる小林久茂の蔵人としての経歴もこの時期に始まりました。酒類販売の規制緩和で全国の地酒が地元に流れ込み、価格破壊も進むなか、苦しい経営が続きました。
三代目の弟が短期間だけ四代目を務めたあと、五代目となった小林久茂は経営と杜氏を兼ねる蔵元杜氏として革新に着手しました。社名を八百新商店から八百新酒造に改め、副業のビールなど他酒類の小売部門を廃止して、清酒醸造に業務を一本化しています。久茂が初めて納得のいく酒を搾れたのが平成12年で、荒削りながら可能性のあるその酒に、原点回帰と新しい船出の思いを込めて「雁木」と名付けました。最初は1本の仕込みから一升瓶でわずか600本の純米無濾過生原酒でした。
「おいしさを分かってもらえる人だけに飲んでもらおう」という姿勢で取扱店を一店ずつ増やし、純米であることと活性炭素で濾過しないことを守りながらラインナップを広げ、支持が全国に広がりました。やがて出荷量は従来の代表銘柄「錦乃誉」を上回り、いまではほぼ全量が「雁木」です。
酒造りを担ってきたのは、瀬戸内海に浮かぶ祝島の杜氏と蔵人たちでした。夏は島で漁をし、冬に海を渡って蔵で酒を造る人々で、八百新酒造は創業以来その技に支えられてきました。祝島出身の杜氏は山口県の多くの酒蔵を支えましたが、島の過疎化で昭和50年代以降に急減し、平成18年に絶えました。最後の杜氏の原田英雄は50年以上にわたって八百新酒造の酒造りを支え、その薫陶を受けた当時専務の小林が杜氏を引き継いで11年間務めたのち、現在は榊田氏が杜氏を務めています。雁木の酒造りには、海から運ばれてきた酒造りの技が受け継がれています。
受賞では、全国新酒鑑評会の平成14酒造年度に「錦乃誉」で金賞、平成16酒造年度に「錦乃誉」で入賞しました。「雁木」は令和元酒造年度と令和3酒造年度に入賞し、令和6酒造年度と令和7酒造年度には金賞を受けています。平成14酒造年度以降では6回入賞し、うち金賞は3回です。広島国税局清酒鑑評会では、平成15年から平成24年にかけて計7回入賞しました。平成15年・17年・18年は「錦乃誉」の入賞で、平成19年は「錦乃誉」が吟醸酒の部で優等賞を受けています。
平成20年は「雁木 純米大吟醸 ゆうなぎ」、平成22年は「雁木」がともに純米吟醸酒の部で、平成24年は「味を主たる特徴とする清酒」部門の「雁木」純米大吟醸酒が優等賞でした。海外のコンクールでは、IWCのSAKE部門で2020年・2022年・2024年・2025年にゴールドメダルを獲得しています。
2020年は「雁木 純米大吟醸 鶺鴒」と「雁木 スパークリング 純米」、2022年は「雁木 スパークリング 純米」、2024年は「雁木 純米 ひとつび」と「雁木 スパークリング 純米大吟醸」、2025年は「雁木 スパークリング 純米」と「雁木 スパークリング 純米大吟醸」です。このうち2020年は鶺鴒、2022年はスパークリング純米、2024年と2025年はスパークリング純米大吟醸が、山口県の県名トロフィーにも選ばれました。
フランスの日本酒コンクールKura Masterでは、プラチナ賞を2018年(鶺鴒とゆうなぎ)、2022年(純米のひとつび)、2023年(ゆうなぎ)に受け、金賞も2019年から2023年と2026年に受けています。令和7年には「雁木 純米大吟醸 鶺鴒」が、8部門1,083銘柄の中から最高賞のプレジデント賞に輝きました。
酒造りの特徴
雁木のラインナップは純米酒だけです。醸造アルコールを加える本醸造は造らず、出来上がった酒を活性炭素で濾過することもしません。搾りあがった酒が二次加工を必要としない完成度であることを自らに課しており、一本の木から像を彫り出す一木造にたとえて、米そのものの可能性を引き出すことを目指しています。
準備には特に手間をかけます。洗米の前に白米の水分含有量を計測し、目標の水分に届く吸水時間を逆算してから作業に入ります。吸水時間は秒単位の勝負なので、10キログラムずつ小分けにして手洗いし、浸漬したあと遠心分離で表面の水を払い、重量を量って吸水率を確かめ、一回ごとに時間を調整します。1日の処理量が600キログラムなら、60回繰り返す計算です。麹づくりでは、麹室に引き込んだ蒸米をまぜ、ほぐし、さばく作業を手で行い、触感を最も頼りにして種麹を散布するタイミングを見極めます。
一方で、麹の品温データは発信機能付きの温度計からWiFiでクラウドに送り、蔵人全員がスマートフォンのアプリで同時に確認しており、ITも活用しています。
仕込みは酒母づくりと三段仕込みという伝統の手法を基本に踏襲しつつ、初添を仲添・留添とは別の、初添の量に合った大きさのタンクで行います。量に対して容器が大きすぎると麹と酵母がうまく働かず、並行複発酵のリズムが乱れるためで、醪を別の容器へ二度移し替える手間がかかります。発酵期間は二十数日で、純米大吟醸は30日以上です。醪は毎日サンプリングして分析する一方、日々変わる表情も見守りながら、搾るまで管理しています。
搾りでは、圧搾機から出た酒が空気と混ざって香りを損なったり酸化したりしないよう、垂壺という設備を導入しました。圧搾機内の空気を逃がし、脈動や攪拌を極力抑えて移送し、受けタンクに静かに流し込む仕組みです。こうして搾った酒は本来の香気成分を保ち、発酵で生じた炭酸ガスもわずかに残って、搾りたてはみずみずしく、貯蔵や熟成による成長の余地も大きい素直な酒になるとしています。
代表銘柄
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雁木
雁木は、五代目蔵元の小林久茂が平成12年に初めて納得のいく酒を搾り、原点回帰の意を込めて名付けた銘柄です。名の由来は、創業の地にあった今津御茶屋の石畳の船着場で、創業当時は錦川を下った原料米がここから水揚げされました。ラインナップは純米酒のみで、活性炭素による濾過をしません。山田錦を使った純米大吟醸の「鶺鴒」は、精米歩合35パーセントです。令和7年のKura Master日本酒コンクールで最高賞のプレジデント賞を受け、IWCでも山口県の県名トロフィーに選ばれています。
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- 補足
- 蔵は山口県岩国市今津町三丁目にあります。雁木は全国の取扱店と飲食店で扱われており、公式サイトの一覧から探せます。
見学・販売の情報は変わることがあります。訪問前に公式サイト等でご確認ください。
蔵の基本情報
- 所在地
- 山口県岩国市今津町3-18-9
- 創業
- 1877年
- 公式サイト
- yaoshin.co.jp
出典
japansake.or.jp / yaoshin.co.jp / sakenomy.jp / compalyze.co.jp / sake-times.com / sakagura-press.com / d-department.com / sasatto.jp / nta.go.jp / nrib.go.jp
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